布施剛臣建築設計事務所布施剛臣建築設計事務所

2024.03.11

「生きる地層」と「根っこ」

「生きる地層」は、2022 年に創業150 周年を迎えた資生堂の一つの節目に、資生堂パーラーで展示されたウィンドウアート作品です。

この作品の切り抜きの一部を「谷地の住宅」の建主さんが譲り受けたことから、今回計画している住宅のメインとなるリビング・吹抜け空間の2層に連なる壁面に展示することを検討しています。

この作品は、「接状剥離」という造形保存技術を活用して実際に大地から剥ぎ取られた地層断面を布地にしたもので、直接見ると、積層した各地層の素材から生き生きとした躍動感が伝わってきます。

今回の住宅の建て替え計画では、先祖代々から脈々と積み重ねられてきた敷地内に色濃く残る中庭や樹木・田園風景を有機的に紡いで風土を引き継ぐことが一つのテーマであるため、「生きる地層」を展示することにも大きな意味があると感じています。

現地打合せの後には、最近度々訪れている河北町立中央図書館へ。
目的は、図書館入り口前に展示されている山形市の画家・須田武文さんの絵画作品「根っこ」。

「地層」と「根っこ」という大地の下層に存在するものとしての作品の共通点を感じながら、今回の展示の仕方の何かヒントを得られればと、いろいろな角度から改めて鑑賞しました。
ただ、トップライトから降り注ぐ光に照らされた作品から伝わる独特の陰影美や生命感あふれる表現の素晴らしさに、いつの間にか気持ちがいいほどに圧倒されるばかりでした。

2024.02.07

住宅街に陽だまりの園舎を

山形市の閑静な住宅街において、こども施設の建替えプロジェクトが新たにスタートしました。

昨年の12月から顔合わせ・既存建物見学・提案・打合せを行いながら、正式に設計監理の依頼をいただきました。

敷地は、店舗やクリニックなどの様々な建物が建ち並ぶ大通りから一本中に入った住宅地にあり、敷地の前面道路以外の3方向には隣地の建物が近い距離で軒を連ねています。

今回は、隣地建物に囲まれた住宅街の敷地の隙間から見える蔵王の山並みの風景を大切にしながら、コンパクトな園舎の中心に光を取り込み、こどもたちが集う「あたたかな陽だまりの場」をつくりたいと考えています。

2024.01.26

暖かさの本質をデザインする

現在計画をすすめている「谷地の住宅」のメイン暖房となるスキャンサーム社の薪ストーブの打合せのため、ショールームへお邪魔してきました。

スキャンサームの薪ストーブは、薪ストーブ本来の魅力である遠赤外線の輻射による体の芯まで温まる暖かさに加え、「ドイツ製の高いデザイン性」と「鋼板のみで仕上げたことによる高い気密性と保温性」を実現しています。
そのため、一般的な薪ストーブとは異なり、標準的な薪ストーブに使われる薪の量の1/5の量で同じ暖かさを保つ事ができ、非常に省エネルギーで暖かさにも優れています。
今回計画している高い断熱性を備えた住まいにも対応した性能になっていて、省エネ住宅との相性も抜群です。

また、打合せをしている脇で薪ストーブを実際に炊いてもらい、当商品の輻射による暖かさの想像以上の質の高さを直接体感することができました。

薪の燃える様子に自然の温かみと安らぎの時間をもたらしてくれるスキャンサームの薪ストーブによって、家族の生活空間がより豊かになるのではないかと、今回の訪問を通してさらに期待が膨らみました。

2024.01.13

大きな欅の木々に包まれて

去年の11月から始まった薬師公園内の計画プロジェクトは、第一段階としての敷地測量・現況測量がおおよそまとまりました。

敷地内の中心には国分寺薬師堂があり、池を中心とした日本庭園や約90本の欅の古木、藤棚、多くの桜の木があって桜の名所にもなっている薬師公園。
毎年5月に行われている「薬師祭り植木市」で幼少の頃から何度も訪れたことのある場所です。

今回のプロジェクトを通して敷地を調査すると、馬見ヶ崎川の流路変更・宮町堰・薬師堂・植木祭などの自然・歴史・文化の文脈が幾重にも堆積している場所であることがさらにわかりました。
今後はこの場所が持つまちの記憶を大切にしながら、少しずつ計画を前に進めていければと考えています。

2024.01.01

謹賀新年

謹んで新年のお慶びを申し上げます。
昨年中は大変お世話になり、誠にありがとうございました。

県内各地で様々な仕事をさせていただく中で、その敷地や周辺が取り巻く山形の原風景のような素晴らしい景色や自然との出会いがいくつもありました。
日常にあるこのような原風景を、どのように豊かな自然環境として生活空間の中に引き寄せられるかを一つのテーマとし、その実現に向けて日々設計活動に取り組んでいます。

それでは本年もどうぞ宜しくお願い致します。

2023.11.20

庭を紡いで風土を引き継ぐ

敷地内の木々が少しずつ色付き始めているなか、「谷地の住宅」の歴史の詰まった既存中庭の調査を行いました。
これまではこの中庭を大枠として捉えていましたが、一つ一つの樹木の樹種や幹回り・枝張り、庭石の大きさなどを調べて図面に詳細を落とし込んでいきました。

庭の専門の方や建主さんにお話を聞きながら作業を進めていく中で、石灯籠・石橋や敷地の奥にある山に見立てた大きな庭石などが「山水庭園」の表現として各所に配置されていたことがわかり、先祖の方々がこの庭を大切にしてきた想いや歴史を僅かばかりではありますが感じることができたような気がしました。

今回の建て替え計画に当たってこの敷地の文脈が色濃く残る中庭を建物と有機的に紡いでいくことは、「河北の風土を引き継ぐ」という本計画のテーマの実現に向けた重要な一つの要素なのだと改めて感じました。

2023.11.09

最上高湯善七乃湯・「Works」更新

今年の5月に竣工した「最上高湯善七乃湯」を「Works」に追加しました。

標高880mにある雄大な自然に囲まれた開湯1,900年の歴史を持つ蔵王温泉の旅館「最上高湯善七乃湯」において、3つの露天風呂の改修計画を行いました。

3つの露天風呂とは、既存の男女の内湯から続く隣り合った各々の露天風呂を一つにして家族や友人と「湯浴み着を着て入浴を楽しめる露天風呂」にするリニューアル、現在4つある離れの貸切露天風呂の間の空いたスペースに「石切り露天風呂」と「サウナ露天風呂」を加える新設、となります。

また、本計画はコロナ禍で影響を受けた観光地の回復を目指し、建物単体だけでなく当該エリア一体の再生計画に対して支援を行う、観光庁の「観光地再生高付加価値化補助金事業」の一つです。

一年を通して多くの観光客が訪れるこの場所において、蔵王の風景を引き寄せることをテーマとしながら、3つの露天風呂それぞれで利用者が温泉と四季折々の自然をゆったりと楽しむことのできるスペースとなることを目指して計画しました。

さらには、既存の貸切露天風呂の間の適度な場所に新たな露天風呂をプロットするとともに、これらを散策できるひとつながりのアプローチ路「湯巡り通り」を意図的に建築として新たに設けました。この通りが当旅館の新たな魅力やにぎわいにつながればと考えました。

2023.10.20

つながりとシークエンス

所属団体の会議が午前で終わり、午後からはずっと訪れたかった長野県立美術館へ見学に行くことができました。本館は宮崎浩さんが、東山魁夷館は谷口吉生さんが設計を手がけた建物となります。

本館で印象的だったのは各エリアとの「つながり」に対する計画の秀逸さです。
3階建ての建物の各階を城山公園と南側道路、さらには10mの高低差のある東側道路へそれぞれつながる形で3つのフロアレベルを設定することで、各階で外部からの水平アプローチが可能な計画となっていました。
この敷地の高低差を利用した断面計画と善光寺の参道に続く軸と隣接する東山魁夷館に至る軸の2軸を計画の中心に据えながら、周辺環境とのつながりと既存建物とのつながり、この2つのつながりがとても素晴らしいものでした。

次に、東山魁夷館で素晴らしかったのは作品を鑑賞しながら体感する、印象的な「シークエンス」の場面展開・動線計画です。

この美術館では経路の始点となる展示室に入室する際と、展示室を出て中庭の休憩スペースに戻る際に、空間の印象が大きく2度変化します。
1つ目はエントランスの明るいホールから暗い展示室へ入る際に明るさが変化し、かつ空間のボリュームも一気に広がる体験です。

2つ目は絵画の鑑賞を終えて展示室から中庭へと出る際、これまでの人工光から自然光へと光が一気に変化する体験です。
鑑賞経路の前半では隠れていた中庭や池、そして光と景色の強い変化が絵画の鑑賞とともにとても感動的でした。

この2つの建物ともにタイプは違えども設計者の街へのつながり方やストーリー性のある場面展開・動線計画に対する真摯な姿勢がひしひしと伝わり、胸を熱くしながら帰路に就きました。