2025.04.25
庭を紡いで風土を引き継ぐ(続編)
2023年11月に設計段階での既存中庭調査の様子を本頁にて紹介を行なった「谷地の住宅」は、昨年11月に建物本体の建て替えが無事完了しました。
そして今年3月からは雪解けとともに外構・植栽工事が始まり、敷地内にあった既存の庭木に積み重ねられた記憶と風景を大切に紡ぎながら、新しい住まいと有機的に結びついた庭づくりがようやく形となりました。
広々とした敷地や中庭、古い住宅の跡地などを再構築し、敷地全体のバランスに考慮して設けた4つの特徴的な庭・緑地スペースが、新たな住まいや地域に豊かな表情をもたらしています。
通りに面した「前庭」は、クローズな既存コンクリートブロック塀を解体し、旧中庭から移植した樹木や月山石の再活用による石積みなどを行いながら、集落の顔となる佇まい・門構えをオープンなかたちでつくり出しています。
通りから住宅へと向かうアプローチ路の脇の「シンボルツリー・芝生スペース」にはイロハモミジを据え、家族や来訪者をやさしく迎え入れる象徴的な場として設えました。
建主さんの思い出が詰まった「ひよこ石」も旧中庭から移設し、芝生の広がりとともにかつての記憶を今に引き継いでいます。
「中庭」は、かつてこの敷地に建っていた住宅とともに、先祖代々受け継がれてきた想いや歴史を最も色濃く留める場所です。
石灯籠、石橋、山に見立てた大きな庭石など、山水庭園として意図された中庭を身近に楽しんでもらえるよう、アプローチ路や玄関と密接につなぎ、石橋を通って散策できる小道も新たに整備しました。
これまでの暮らしの記憶を受け継ぎ、家族の心をつなぐ大切な場としています。
敷地奥の「プロムナード・家庭菜園」は、田園風景とのつながりを大切にした場所です。
敷地を貫くプロムナードが田園風景へと視線を導き、その広がりを一層高める役割を果たしています。
もともとあった家庭菜園と組み合わせることで、農作物作りと風景が深く結びつき、穏やかな暮らしの場をつくり出しています。
これら4つの庭・緑地スペースが、それぞれの表情を持ちながら敷地内に点在することで、新しい住宅は、かつてこの地に積み重ねられてきた時間と、これから紡がれていく未来とを、静かに結び直す場となりました。
この土地に息づく風土と記憶を、暮らしの中に柔らかく溶け込ませながら、新たな物語がまた一歩ここから始まっていきます。