布施剛臣建築設計事務所布施剛臣建築設計事務所

2026.08.03

みんなで支え合う地域の家

山形市あこや町にある大風印刷旧ガッタハウスの建物を活用した、「アジェンダやまがた第二期改修工事」の工事安全祈願祭を執り行いました。

今回のコンバージョンで新たに開設する事業は、不登校の児童がキッチンに集まり調理したパンやスイーツを地域の高齢者に配食することを通じて不登校児と独居高齢者をつなぎ支える、「新たな地域共生のための拠点」づくりです。

建物の名称は、CASA TUTTI(カーサ トゥッティ) ~みんなで集い、みんなで支える地域の家~

2階フロアの中心に、コーナーの壁が柔らかな曲面となった「オープンキッチン」を配置し、建具やガラス開口で各部屋とのつながりを高めているのが空間構成の特徴です。

「キッチン」「インクルーシブ」「地域」「既存建物の再生」という4つのテーマをつなぎ合わせぎながら、地域と共に歩む「もうひとつの家」のような場所を目指します。

この日は関係者が集まり、これから始まるコンバージョン工事の安全と新たな事業の成功を祈願しました。
11月の事業開始に向け、いよいよ工事がスタートします。

2026.06.13

土壁がもたらす街の空気感

「六日町のオフィス」の外壁左官工事が行われました。

今回の外壁には、街がまとう空気をこの建物へも映し出すべく、湯殿山神社をはじめとするこの地域の土をご協力のもと採取し、配合して混ぜ込んだ土塗り壁を採用しました。
地域が刻んできた記憶や景色をこの建物へ重ね、街の空気感をより豊かに醸成するとともに、文翔館の館内で息づく左官文化をここにも残していきたいと考えました。

初夏のやわらかな陽射しが街並みに差し込むなか、左官職人の原田さん親子が一鏝ごとに表情を確かめながら、丁寧に土壁を塗り重ねていってくれました。
土の粒子や鏝の跡が織りなす繊細な表情は、手仕事ならではの温かみや陰翳を感じさせてくれます。

街の風景を新たに映すこの土壁が街並みに自然と溶け込み、ひっそりと佇むこの場所らしい時間がまた改めて流れていってくれれば嬉しいです。

2026.06.04

街の流れに沿うように

「六日町のオフィス」のフローリング施工が行われました。

今回の改装では、街の空気感を室内へ緩やかに引き込めるよう、前面道路の流れや文翔館と湯殿山神社が並ぶこの地域の軸線に合わせて、フローリングの張り方向を計画しました。

床の張り方向は、そのわずかなニュアンスで空間の印象や街とのつながりも大きく変わってきます。

工事は、大きく開かれた入口開口部から街の風景が広がるなか、職人さんが一枚一枚フローリングの向きを意識しながら、丁寧に施工を進めてくれました。

こうした想いのこもった細やかな施工の積み重ねが、建築の居心地を形づくっていきます。この場所がこれまで積み重ねてきた記憶を受け継ぎながら、新たな時間を刻む場所へ。

少しずつ、その輪郭が見え始めています。

2026.05.16

木と長く暮らすために

2021年4月に竣工した「小白川町の住宅」は、隣の住宅が近接する西側の2階軒天の一部に、昨年秋頃より黴の付着が見られたため、当該箇所の補修に合わせて2階軒天全体と1階テラス軒天、正面外壁の木材保護塗装の塗り直しを行いました。

作業は、付着箇所を除去しつつ全体に清掃をかけ、防止補強下塗り材を施した上で、木材保護塗装を重ねる工程です。
当日は塗装職人さんのご指導のもと、建主さんと私も作業に参加しました。夏を感じさせる強い日差しの中、木の状態を確認しながら、経年変化した木肌に塗膜を重ねていきました。

外部の木材仕上げは、山形の気候風土の中で時間とともに表情や状態を変えていきます。
その変化を受け止めながら、木の建物に長く住み続けるため、適切に手を加えて維持していく手法を直接体験して学ぶ良い機会となりました。

2026.04.24

キッチンがつなぐ地域共生

山形市あこや町にある障がい児通所支援施設「アジェンダやまがた」では、利用登録者の増加や新規事業の立上げに対応するため、隣接する旧ガッタハウスを活用した第二期の改修設計が始動しています。

今回のコンバージョンで新たに開設を目指すのが、不登校児による高齢者向けケータリングサービス事業「つながるキッチン」です。
この事業では、不登校児がスタッフのもとで調理・配食・接客・運営に関わりながら社会性を育み、同時に地域の高齢者宅を訪問し、軽食のケータリングと傾聴サービスを通して孤立の解消を目指します。

本日の調理実演会では、キッチンメーカーの協力のもと、導入予定のスチームコンベクションオーブンなどを使用し、配食サービスを想定した調理検証を行いました。
クッキーやパンを中心に調理工程を実際に体験し、作業動線や衛生管理、オペレーションについて理解を深めることができました。

スチームコンベクションオーブンは、複数のメニューを同時に調理しながらも短時間で安定した焼き上がりを実現し、食材の風味やしっとりとした食感もしっかり保たれていました。限られた人員でも品質と効率を両立できる可能性を強く感じる機会となりました。

7月からはいよいよ改修工事がスタートし、10月の事業オープンに向けて、「つながるキッチン」は具体化の段階へと入ります。

この事業は、不登校児の社会復帰支援と独居高齢者の生活支援を融合させた、地域共生社会の実現を目指す新たな取り組みです。
不登校児が社会とつながり、高齢者が安心して暮らせる地域をつくるために、オープンまでに打合せやシミュレーションを重ねながら課題を一つひとつ乗り越えていきたいと考えています。

2026.04.09

街にひっそりと佇む場所

昨年から計画・打合せを重ねてきた「六日町のオフィス」の改装工事がまもなくスタートします。

文翔館の裏手にひっそりと佇むこの場所は、以前の「紙月書房」

ここは、2023年までの12年間、古本・カフェ・音楽に包まれながら誰もが自由に過ごせ、おおらかで独特の時間が流れる、街の中の特別な場所でした。

用途は変わっても、存在感のある丸太柱やカウンター上部の浮遊感のある付け鴨居など、想いの詰まった象徴的ディテールは残してあります。

少し手を加えながら「オフィス・ギャラリー」として再スタートするこの建物が、街にゆったりとした時間をまた刻んでいくことが今からとても楽しみです。

2026.03.29

風景と建築が重なる合う

関東の桜の開花に合わせ、以前から訪れたかった 「道の駅ましこ」を視察しました。

設計はマウントフジアーキテクツスタジオによるもので、「風景の建築」という考えのもと、周囲に広がる田園や山並みのかたちや質感を手がかりに、建築の形式や構成が丁寧に組み立てられていました。

内部は、木架構と土壁が空間を緩やかに分節し、屋根の位相差によって生まれるハイサイドライトからの自然光が差し込み、山並みと呼応するように連続的な空間体験を生み出していました。

風景を一つの媒介として建築が地域と深く結び直されていることがよくわかり、地域の公共建築のあり方の一つを体感できた貴重な視察となりました。

2026.02.03

省エネ住宅でのびやかに暮らす

「谷地の住宅」は、建主さんが住み始めてから2シーズン目の冬を迎えています。

久しぶりにお宅を訪ね、薪ストーブの火にあたりながら、雪化粧した田園風景を眺めつつ、この住まいでの冬の暮らしについてゆっくりとお話を伺うことができました。

この住宅は、山形県が推進する「やまがた省エネ健康住宅(等級:Y-G3)」の断熱性能を備えています。
実際に暮らしてみて感じる快適性についてお聞きすると、薪ストーブがもたらす輻射による身体で感じるやわらかな暖かさと、壁面などに蓄えられた熱が逃げにくい高い断熱性能によって、一日を通してとても快適に過ごされているとのことでした。
空気を強く暖めるというより、空間全体が穏やかに温まっている感覚だといいます。

今回の訪問では、体感だけでなく数値的な検証も行いました。
温湿度計による温度分布データの確認と、表面放射温度計を用いてリビング空間の床・壁・天井の温度測定です。
温度分布のデータは、朝の冷え込みが厳しかった1月24日をピックアップしました。(下図参照)

薪ストーブのあるリビングでは、就寝前に暖房を止めたあとも朝まで暖かい室温を保ち、午前10時頃から薪を少しずつ足しながら夜まで快適に過ごされていました。
また、暖房のない玄関前の廊下でも、夜間の外気温が−7.1℃まで下がったときでも室温は14℃を下回ることがなく、一日を通して寒さをほとんど感じないとのことでした。
断熱性能の高さによって、家全体の温度差が小さく抑えられていることがうかがえます。

訪問当日のリビングの床壁天井の温度は、以下の結果でした。
・リビングの室温(一般部)           21.8℃
・リビング床の表面温度(一般部)      21.1℃
・リビング壁の表面温度(薪ストーブ正面)  23.6℃
・リビング壁の表面温度(一般部)      22.1℃
・リビング天井の表面温度(一般部)     22.7℃

室温と床・壁・天井の表面温度の差が小さいことが分かります。
人が感じる暖かさは空気温度だけではなく、周囲の表面温度の影響も大きく受けます。
この住まいでは、空間全体が穏やかに温められることで、身体にやさしい快適な暖かさが生まれていることが確認できました。

この住宅で目指したのは、断熱性能を高めることとオープンな空間構成を組み合わせながら、「風景と適度な距離感を保ちつつ、雪国の寒い冬でものびやかに暮らせる山形らしい住まい」をかたちにすることでした。

訪問の一週間ほど前、早朝のリビングから南に広がる雪景色の田んぼに、キジが姿を現したそうです。静かな朝の光のなかで、その姿をご夫婦で眺めていたというお話を聞かせていただきました。

雪に包まれた風景と、暖かな室内の時間。
その両方を穏やかにつなぐ場所として、この住まいが日々の暮らしに根づいていることを感じた冬の訪問となりました。