布施剛臣建築設計事務所布施剛臣建築設計事務所

2026.01.01

謹賀新年

謹んで新年のお慶びを申し上げます。
昨年は「谷地」「奈良沢」と、設計を通して各地の集落と向き合い、山形という土地に根差した風景と暮らしの息づかいに改めて触れる一年となりました。

「建築をつくることは、山形の新たな輝く風景をつくること」

この想いを胸に刻んで、土地に織りなす記憶を紡ぎ、各々の地域の素晴らしい風景と暮らしを見つめその土地の風土を大切にしながら、次世代へ続いていく建築と住まいのあり方を形にしてまいります。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2025.11.30

インクルーシブコンサート

山形市あこや町にある障がい児通所支援施設「アジェンダやまがた」は、旧大風印刷事務所を改修し、音楽の楽しさを通した療育活動の場として、木の実町から移転し再スタートを切った建物です。
地域に息づく建築ストックを活かし、人の営みと音が重なり合う風景を紡いできました。オープンから4年、いまでは子どもたちの声と音楽が、この地域の日常の風景として根づいています。

現在は利用者の増加を受け、隣接する旧ガッタハウスを活用した第二期の改修計画がいよいよ始動しています。

設計者としてこの活動への理解をより深めたいと思い、今日は法人主催の「インクルーシブコンサート」を鑑賞してきました。子どもたちの演奏とピアニスト三輪郁さんの音色が響き合う会場には、アジェンダやまがたが大切にしてきた“音楽が人と人、場所と地域をつなぐ力”が確かに感じられました。

今回の計画で目指すのは、音楽を通したインクルーシブな活動をやさしく包み込み、地域と共に歩む“もうひとつの家”のような場所です。
11年前に訪れたイギリスの「マギーズハウス(Maggie’s Centre)」の理念である「施設でも家庭でもない、心が解きほぐれる“家のような建物”」に通じるものもあります。
「音楽」「インクルーシブ」「地域」「既存建物の再生」という4つのテーマに沿い、地域と音楽支援活動が響き合う姿を丁寧に形にしていきたいと思います。

 

2025.11.06

奈良沢を肌で感じる

天童市にある「奈良沢の住宅」のプロジェクトがまもなく始動を迎えるにあたり、紅葉が深まる秋晴れの日に現地で街歩きとフィールドワークを行いました。
敷地は天童市南東部、貫津沼のほど近くに位置し、背後には「出羽の三森(みつもり)」と呼ばれる舞鶴山・八幡山・越王山が連なります。古くからこの山々は田を潤す水源として地域の生活を支え、この地域の風景の一部となってきました。

まず今回計画する敷地周辺を歩いて印象的だったのは、背後に迫る越王山の存在感です。敷地の奥では紅葉した里山と庭のハナミズキやモクレンなどが重なり合い、「山を背に庭を前に抱く」構図に、この土地ならではの暮らしの原型を感じました。
街道沿いには昔からの名残のある建物も点在し、石垣や生け垣と一体となって穏やかな集落景観を形づくっています。少し離れた場所から集落全体を眺めると、田畑の向こうに「出羽の三森」の稜線が見え、「山並み・田畑・集落」が水平ラインに層をなして素晴らしい風景となっていました。

これから始まる計画では、こうした地形や風景を大切にし、南東に開く眺望軸を確保しながら、里山の稜線を生活の背景とした住まいの姿を思い描いています。
敷地内にある既存の庭木も生かし、内と外が緩やかにつながる空間をつくることで、奈良沢らしい四季の移ろいが住まいに滲み込むような住環境を目指したいと考えています。

2025.10.03

絵画「静唱」を迎える

長野県立美術館・東山魁夷館を2年ぶりに訪れました。

駅から続く坂道の先に堂々と佇む善光寺の存在感、城山公園と一体となったランドスケープミュージアムを楽しむ人々の姿、そして屋上テラスから望む信州の山並み。これらが重なり合うこのエリアは、好きな街であり、好きな場所です。この周辺を歩いていると、考えていることや感性が穏やかに澄まされていくように感じます。

また、谷口さんが設計した「東山魁夷館」は、光と影、水と石、そして館内の凛とした空気感までが調和した穏やかな美術館です。無駄のない構成の中で、建築と絵画が呼応し合い、心を静かに整えてくれます。

そんな中、かつてから心惹かれている東山魁夷の「静唱」を再び鑑賞することができました。晩秋の霧深い朝、ポプラ並木が水面に映る静寂の風景。作者が「ヨーロッパの異国の地で故国を恋う感情が静かに響いてきた」と語るように、淡い青に包まれた光景は、心の奥に穏やかな余韻を残します。

そして今回は、2年越しの想いを込めて「静唱」の絵画を購入し、ついに事務所に迎え入れることができました。日々の仕事の中で少しずつ波立っていく思考や感情が、この絵を前にすると静かに整い、凪のような状態になります。その静けさの中に、ものをつくる原点のような感覚がそっと戻ってくるような、そんな時間をもたらしてくれる一枚です。

2025.09.18

谷地の住宅・「Works」更新

今年の5月に竣工した「谷地の住宅」を「Works」に追加しました。

この敷地は、四季を映す水田と遠くに連なる山々が調和し、静かな時間の流れを感じられる場所です。その豊かな田園風景に向けて建物を開き、代々受け継がれてきた中庭の存在を大切にしながら計画を進めてきました。

計画の主題として掲げたのは二つです。

ひとつは、この土地が持つ潜在的な素晴らしさを引き出すこと。田園のひらけた眺望と、屋敷内へと導くように存在する中庭。その両方を日常の暮らしの中に取り込み、新しい住まいを風景と結びつけることを目指しました。

もうひとつは、地面とのつながりを保ちながら接地性・平屋性をもたせること。深い軒を介して人の営みと家庭菜園・田園風景が連続的かつ近距離的に関わり合うように計画しました。木々や農作物が傍にあり土に触れる暮らしが、この土地らしい新たな風土の基盤を築いていきます。

「谷地の住宅」は、風土に根ざした姿と地面とつながりをもったエコロジカルな暮らし方をひとつに結び、土地の記憶とこの地域ならではの暮らしを静かに織り合わせた住まいとして、また新たにここに佇み続けます。

 

2025.05.15

豊かさは窓の向こうからやってくる

当事務所の和室5.5畳の打合せスペースの南側に面した窓の先に広がる前庭では、藤の花が満開を迎えています。

淡くやさしい紫の花房が、春の風にたおやかに揺れている姿は、ふとした瞬間に心をほどいてくれるような美しさがあります。
この藤は、数年前に足利フラワーパークで手に入れたもので、枝が枯れてしまった古木のキャラに巻きつけるかたちで植えたものです。
今では堂々とした存在感を放ちながら、打合せに訪れる人たちの目を楽しませてくれています。

この打合せスペースには特別な装飾はなく、テーブルと椅子が並ぶだけの簡素なつくりです。 それでもここに座っていると、不思議と心が落ち着いていくのを常日頃から感じています。

窓の外から差し込む光、通り抜ける風、草木の匂い、鳥のさえずり、葉のこすれる音。
こうした外の世界が、まるでこの小さな和室にすっとダイレクトに溶け込んでくるような、そんな距離感があるからなのかもしれません。

暮らしの中の豊かさは、いつも外部からやってくる。

改めてそう思わせてくれた、藤の花咲く春の日のひとときでした。

2025.04.25

庭を紡いで風土を引き継ぐ(続編)

 

2023年11月に設計段階での既存中庭調査の様子を本頁にて紹介を行なった「谷地の住宅」は、昨年11月に建物本体の建て替えが無事完了しました。
そして今年3月からは雪解けとともに外構・植栽工事が始まり、敷地内にあった既存の庭木に積み重ねられた記憶と風景を大切に紡ぎながら、新しい住まいと有機的に結びついた庭づくりがようやく形となりました。

広々とした敷地や中庭、古い住宅の跡地などを再構築し、敷地全体のバランスに考慮して設けた4つの特徴的な庭・緑地スペースが、地域や新たな住まいに豊かな表情をもたらしています。

通りに面した「前庭」は、クローズな既存コンクリートブロック塀を解体し、旧中庭から移植した樹木や月山石の再活用による石積みなどを行いながら、集落の顔となる佇まい・門構えをオープンなかたちでつくり出しています。

通りから住宅へと向かうアプローチ路の脇の「シンボルツリー・芝生スペース」にはイロハモミジを据え、家族や来訪者をやさしく迎え入れる象徴的な場として設えました。
建主さんの思い出が詰まった「ひよこ石」も旧中庭から移設し、芝生の広がりとともにかつての記憶を今に引き継いでいます。

「中庭」は、かつてこの敷地に建っていた住宅とともに、先祖代々受け継がれてきた想いや歴史を最も色濃く留める場所です。
石灯籠、石橋、山に見立てた大きな庭石など、山水庭園として意図された中庭を身近に楽しんでもらえるよう、アプローチ路や玄関と密接につなぎ、石橋を通って散策できる小道も新たに整備しました。
これまでの暮らしの記憶を受け継ぎ、家族の心をつなぐ大切な場としています。

敷地奥の「プロムナード・家庭菜園」は、田園風景とのつながりを大切にした場所です。
敷地を貫くプロムナードが田園風景へと視線を導き、その広がりを一層高める役割を果たしています。
もともとあった家庭菜園と組み合わせることで、農作物作りと風景が深く結びつき、穏やかな暮らしの場をつくり出しています。

これら4つの庭・緑地スペースが、それぞれの表情を持ちながら敷地内に点在することで、新しい住宅は、かつてこの地に積み重ねられてきた時間と、これから紡がれていく未来とを、静かに結び直す場となりました。
この土地に息づく風土と記憶を、暮らしの中に柔らかく溶け込ませながら、新たな物語がまた一歩ここから始まっていきます。

2025.03.28

創建百五十年のその先へ

山形市旅篭町にある「里之宮湯殿山神社」は令和8年に創建150年という大きな節目を迎えます。

この佳き年に向け、神社では参拝環境の向上と地域の鎮守社としての姿を後世に継承していくため、各種記念事業の計画と整備工事が段階的に進められています。

その一環として、「社務所」の修繕計画もいよいよ本格始動しました。まずは現地調査と関係者へのヒアリングを実施し、参拝者をお迎えし神職が日々の務めを果たす場として、より機能的で風格のある空間を目指し、修繕内容を検討しています。

引き継がれていく次の世代に向けて、「使いやすく快適な環境を整えること」と「歴史的な空気感をデザインとして継承すること」というテーマに基づき、様々なご提案ができればと考えています。