2023.10.20
つながりとシークエンス
所属団体の会議が午前で終わり、午後からはずっと訪れたかった長野県立美術館へ見学に行くことができました。本館は宮崎浩さんが、東山魁夷館は谷口吉生さんが設計を手がけた建物となります。
本館で印象的だったのは各エリアとの「つながり」に対する計画の秀逸さです。
3階建ての建物の各階を城山公園と南側道路、さらには10mの高低差のある東側道路へそれぞれつながる形で3つのフロアレベルを設定することで、各階で外部からの水平アプローチが可能な計画となっていました。
この敷地の高低差を利用した断面計画と善光寺の参道に続く軸と隣接する東山魁夷館に至る軸の2軸を計画の中心に据えながら、周辺環境とのつながりと既存建物とのつながり、この2つのつながりがとても素晴らしいものでした。
次に、東山魁夷館で素晴らしかったのは作品を鑑賞しながら体感する、印象的な「シークエンス」の場面展開・動線計画です。
この美術館では経路の始点となる展示室に入室する際と、展示室を出て中庭の休憩スペースに戻る際に、空間の印象が大きく2度変化します。
1つ目はエントランスの明るいホールから暗い展示室へ入る際に明るさが変化し、かつ空間のボリュームも一気に広がる体験です。
2つ目は絵画の鑑賞を終えて展示室から中庭へと出る際、これまでの人工光から自然光へと光が一気に変化する体験です。
鑑賞経路の前半では隠れていた中庭や池、そして光と景色の強い変化が絵画の鑑賞とともにとても感動的でした。
この2つの建物ともにタイプは違えども設計者の街へのつながり方やストーリー性のある場面展開・動線計画に対する真摯な姿勢がひしひしと伝わり、胸を熱くしながら帰路に就きました。
2023.09.20
河北町聖地巡礼
「谷地の住宅」の打合せ後、辺りを見渡すと少しずつ稲刈りが始まる気持ちの良い秋晴れの空の下、敷地周辺の集落や町内の名所「旧堀込邸(紅花資料館)」の街歩き・フィールドワークを行いました。
今回の敷地周辺の集落を歩いてみると、先祖代々から引き継いだ敷地内で建替えや改修などを加えながら住み続けている住宅が数多く残っていました。
これらの住宅の特徴としては、奥行きが長く広い敷地・表門や板塀などによるしっかりとした屋敷構え・地域特有の冬の北西からの吹込みを抑えた東面からの玄関アプローチ・趣のある前庭や中庭・農家としての以前の生活様式が伺える別棟の小屋、などがありました。
次に、河北町西部地区の集落の一角にある「旧堀込邸」を久しぶりに訪れました。
ここは河北町のプロジェクトがあるたびに毎回訪れ、最上川舟運によって栄えたこの町の生活様式や空気感を感じるのできる、個人的に河北町の設計における「聖地」のような場所です。
広い敷地内には長屋門・座敷蔵・武者蔵・収納蔵・庭などが当時の生活のストーリーに沿って点在していて、一つの小さな集落・まちがあるかのような、豊かな佇まいをつくっています。
当時の一般の家と豪農であった堀込邸では規模の違いはあれども、米と紅花で栄えた河北町の生活様式や風土を知る上で参考になるもの・感じるものが沢山あった、充実した街歩きとなりました。
2023.09.05
のどかに広がる田園風景
山形県河北町谷地ののどかな田園風景が広がる敷地において、新たな住宅プロジェクトがいよいよ本格的にスタートします。
7月から顔合わせ・完成建物見学・提案・打合せを重ねていく中で、本日正式に設計監理の申込みをいただきました。
先祖から代々受け継がれてきた広い敷地内には、農機具小屋・車庫小屋や家庭菜園、歴史の詰まった中庭などが数多く点在し、これらは基本的に残す方針です。
今回は、敷地内の余白を縫うようにして遠くまで広がる稲田の景色に開かれた建物を計画するとともに、敷地内に新たに「通り・路地」を設けることで、既存の各要素がより一層魅力的につながる「豊かな住まい」のかたちを提案できたらと考えています。
2023.06.03
景観を室内に引き寄せる
雄大な自然に囲まれた温泉街のある山岳観光地において、3月から調査・改修計画をスタートした4棟のプロジェクトの設計が大詰めを迎えています。
調査を進めると各施設は山肌に寄り添いながらその場にふさわしい方角を向いて建っていて、敷地条件や高低差を有効に生かしてその場所ならではの豊かな景観を享受していることが改めてわかりました。
そこで、日常となっているこの素晴らしい景観を再認識しながら今回の宿泊滞在空間に引き寄せることを一つのテーマに掲げ、各施設のリデザイン・リブランディングにもつながる計画を進めてきました。
四季を通して多くの観光客が訪れるこの地において、豊かな自然環境を最大限に取り込みながら、次の世代に向けた魅力ある改修提案ができればと考えています。
2023.03.16
庭を取り込んだ軒下空間
木架構による軒下空間のお茶処・休み処の事例の視察として、一条通りにある「虎屋菓寮京都一条店」を訪れました。
木の架構が美しい空間をなすお店として有名であるとともに、設計が内藤廣さんということで雑誌でも何度か拝見していて、以前から非常に興味のある建物でした。
室内の中心となる喫茶・休憩スペースは、奥にある既存の中庭と一条通りに面した前庭を結ぶ南北方向に向けての抜けを強く意識した透明かつ軽快な造りとなっていて、瓦屋根による重厚な外観との色濃いコントラストがとても印象的でした。
勾配屋根を架けることで生まれた室内の小屋裏には鉄骨造が隠れていて、天井の木ルーバーが意匠だけにとどまらず、この構造を補完する形で接合されていました。鉄骨と木が絶妙なバランスで補い合いながら、庭に向けての抜けや室内空間の柔らかさをつくり出している繊細でキレイなディテールに感動を覚えました。
外のテラス席となる軒下空間は庇を大きく張り出して軒先をできるだけ低く抑えることで、人を包み込むような空間となっていて、軒下に庭の空気感を目いっぱい引き込んだとても気持ちの良い場所となっていました。
この建物の配置計画・空間構成・ディテールを通して、昔から受け継がれてきた大切な庭に対する設計の強い意識・敬意がひしひしと感じられ、想像以上の貴重な体験をすることができました。
2023.02.20
やまがた省エネ健康住宅
自治体の予算案が固まったことにより、県庁にて新年度の住宅関係の補助金に関する「令和5年度山形県支援制度説明会」が行われました。
主な内容は以下の通りです。
[やまがた省エネ健康住宅]
1.「やまがた健康住宅」から「やまがた省エネ健康住宅」への名称変更
2.基準値名称の変更 等級1(☆☆☆)→Y-G3、等級2(☆☆)→Y-G2、等級3(☆)→Y-G1
[断熱性能及び気密性能の基準値の変更はなし、HEAT20に合わせた等級名称の変更のみ]
3.補助額70万円
4.募集戸数200戸
[やまがた省エネ健康住宅+再エネ設備パッケージ]
1.やまがた健康住宅と併せて太陽光発電設備及び蓄電池設備・HEMSを設置する新築住宅に補助
2.補助額55~200万円
3.募集戸数50戸
弊社では「小白川の住宅」にて令和3年1月に「やまがた健康住宅」の等級2の認証をいただきました。
令和5年度の制度についても現在検討中の物件や今後の物件において積極的に補助金を取り入れながら、環境と家計にやさしい計画を引き続き進めていきたいと考えています。
2023.01.26
放射がもたらす快適な環境
放射冷暖房用ラジエータの製造開発を行っているピーエス株式会社の交流会にて、室内の冷暖房機器「PS HRシリーズ」や食品・ワインなどの貯蔵庫に設ける「PSカンティーナ」の概要や実例を平山社長から直接聞くことができました。
時代の流れやコストパフォーマンスの観点からACの送風による冷暖房が主流となっていますが、さらなる快適性を考えると、空気の温度だけではなくいかに放射(輻射)環境を整えるかが大切だと感じていました。
説明では、除湿型放射冷暖房「PS HR-C」がつくる放射と自然対流のシステムが、人をやさしく温めたり野菜やワインをやさしく冷やしてくれる快適な室内環境を可能にするとのことでした。冬は室温が低めでも周囲の床壁天井が冷たくなければ寒くは感じず、夏は室温が高めでも周りが冷えていれば心地よい冷涼感が得られるという原理です。
説明後にはソムリエの米野真理子さんがお薦めする極上のワインをご馳走になりながら、追い求めるより自然に近い快適な室内環境(縁側の陽だまりのようなぽかぽかした暖かさ、洞窟の中にいるようなひんやりとした涼しさ)の実現に向けて、コストバランスを調整しながら引き続き建て主さんに説明と提案を続けていこうと決意を新たにしました。
2023.01.01
謹賀新年
謹んで新年のお慶びを申し上げます。
昨年中は大変お世話になり、ありがとうございました。
住宅や各地で行なっているリノベーションの設計を通し、建物やそこに住まう人の営みに地面やまちとのつながりを保持することで、新たにできた建物が生き生きとした表情で山形の風土に根付くことを目指して日々取り組んでいます。
それでは本年もどうぞ宜しくお願い致します。