布施剛臣建築設計事務所布施剛臣建築設計事務所

2024.01.01

謹賀新年

謹んで新年のお慶びを申し上げます。
昨年中は大変お世話になり、誠にありがとうございました。

県内各地で様々な仕事をさせていただく中で、その敷地や周辺が取り巻く山形の原風景のような素晴らしい景色や自然との出会いがいくつもありました。
日常にあるこのような原風景を、どのように豊かな自然環境として生活空間の中に引き寄せられるかを一つのテーマとし、その実現に向けて日々設計活動に取り組んでいます。

それでは本年もどうぞ宜しくお願い致します。

2023.11.20

庭を紡いで風土を引き継ぐ

敷地内の木々が少しずつ色付き始めているなか、「谷地の住宅」の歴史の詰まった既存中庭の調査を行いました。
これまではこの中庭を大枠として捉えていましたが、一つ一つの樹木の樹種や幹回り・枝張り、庭石の大きさなどを調べて図面に詳細を落とし込んでいきました。

庭の専門の方や建主さんにお話を聞きながら作業を進めていく中で、石灯籠・石橋や敷地の奥にある山に見立てた大きな庭石などが「山水庭園」の表現として各所に配置されていたことがわかり、先祖の方々がこの庭を大切にしてきた想いや歴史を僅かばかりではありますが感じることができたような気がしました。

今回の建て替え計画に当たってこの敷地の文脈が色濃く残る中庭を建物と有機的に紡いでいくことは、「河北の風土を引き継ぐ」という本計画のテーマの実現に向けた重要な一つの要素なのだと改めて感じました。

2023.11.09

最上高湯善七乃湯・「Works」更新

今年の5月に竣工した「最上高湯善七乃湯」を「Works」に追加しました。

標高880mにある雄大な自然に囲まれた開湯1,900年の歴史を持つ蔵王温泉の旅館「最上高湯善七乃湯」において、3つの露天風呂の改修計画を行いました。

3つの露天風呂とは、既存の男女の内湯から続く隣り合った各々の露天風呂を一つにして家族や友人と「湯浴み着を着て入浴を楽しめる露天風呂」にするリニューアル、現在4つある離れの貸切露天風呂の間の空いたスペースに「石切り露天風呂」と「サウナ露天風呂」を加える新設、となります。

また、本計画はコロナ禍で影響を受けた観光地の回復を目指し、建物単体だけでなく当該エリア一体の再生計画に対して支援を行う、観光庁の「観光地再生高付加価値化補助金事業」の一つです。

一年を通して多くの観光客が訪れるこの場所において、蔵王の風景を引き寄せることをテーマとしながら、3つの露天風呂それぞれで利用者が温泉と四季折々の自然をゆったりと楽しむことのできるスペースとなることを目指して計画しました。

さらには、既存の貸切露天風呂の間の適度な場所に新たな露天風呂をプロットするとともに、これらを散策できるひとつながりのアプローチ路「湯巡り通り」を意図的に建築として新たに設けました。この通りが当旅館の新たな魅力やにぎわいにつながればと考えました。

2023.10.20

つながりとシークエンス

所属団体の会議が午前で終わり、午後からはずっと訪れたかった長野県立美術館へ見学に行くことができました。本館は宮崎浩さんが、東山魁夷館は谷口吉生さんが設計を手がけた建物となります。

本館で印象的だったのは各エリアとの「つながり」に対する計画の秀逸さです。
3階建ての建物の各階を城山公園と南側道路、さらには10mの高低差のある東側道路へそれぞれつながる形で3つのフロアレベルを設定することで、各階で外部からの水平アプローチが可能な計画となっていました。
この敷地の高低差を利用した断面計画と善光寺の参道に続く軸と隣接する東山魁夷館に至る軸の2軸を計画の中心に据えながら、周辺環境とのつながりと既存建物とのつながり、この2つのつながりがとても素晴らしいものでした。

次に、東山魁夷館で素晴らしかったのは作品を鑑賞しながら体感する、印象的な「シークエンス」の場面展開・動線計画です。

この美術館では経路の始点となる展示室に入室する際と、展示室を出て中庭の休憩スペースに戻る際に、空間の印象が大きく2度変化します。
1つ目はエントランスの明るいホールから暗い展示室へ入る際に明るさが変化し、かつ空間のボリュームも一気に広がる体験です。

2つ目は絵画の鑑賞を終えて展示室から中庭へと出る際、これまでの人工光から自然光へと光が一気に変化する体験です。
鑑賞経路の前半では隠れていた中庭や池、そして光と景色の強い変化が絵画の鑑賞とともにとても感動的でした。

この2つの建物ともにタイプは違えども設計者の街へのつながり方やストーリー性のある場面展開・動線計画に対する真摯な姿勢がひしひしと伝わり、胸を熱くしながら帰路に就きました。

 

2023.09.20

河北町聖地巡礼

「谷地の住宅」の打合せ後、辺りを見渡すと少しずつ稲刈りが始まる気持ちの良い秋晴れの空の下、敷地周辺の集落や町内の名所「旧堀込邸(紅花資料館)」の街歩き・フィールドワークを行いました。

今回の敷地周辺の集落を歩いてみると、先祖代々から引き継いだ敷地内で建替えや改修などを加えながら住み続けている住宅が数多く残っていました。
これらの住宅の特徴としては、奥行きが長く広い敷地・表門や板塀などによるしっかりとした屋敷構え・地域特有の冬の北西からの吹込みを抑えた東面からの玄関アプローチ・趣のある前庭や中庭・農家としての以前の生活様式が伺える別棟の小屋、などがありました。

次に、河北町西部地区の集落の一角にある「旧堀込邸」を久しぶりに訪れました。
ここは河北町のプロジェクトがあるたびに毎回訪れ、最上川舟運によって栄えたこの町の生活様式や空気感を感じるのできる、個人的に河北町の設計における「聖地」のような場所です。
広い敷地内には長屋門・座敷蔵・武者蔵・収納蔵・庭などが当時の生活のストーリーに沿って点在していて、一つの小さな集落・まちがあるかのような、豊かな佇まいをつくっています。

当時の一般の家と豪農であった堀込邸では規模の違いはあれども、米と紅花で栄えた河北町の生活様式や風土を知る上で参考になるもの・感じるものが沢山あった、充実した街歩きとなりました。

2023.09.05

のどかに広がる田園風景

山形県河北町谷地ののどかな田園風景が広がる敷地において、新たな住宅プロジェクトがいよいよ本格的にスタートします。

7月から顔合わせ・完成建物見学・提案・打合せを重ねていく中で、本日正式に設計監理の申込みをいただきました。

先祖から代々受け継がれてきた広い敷地内には、農機具小屋・車庫小屋や家庭菜園、歴史の詰まった中庭などが数多く点在し、これらは基本的に残す方針です。

今回は、敷地内の余白を縫うようにして遠くまで広がる稲田の景色に開かれた建物を計画するとともに、敷地内に新たに「通り・路地」を設けることで、既存の各要素がより一層魅力的につながる「豊かな住まい」のかたちを提案できたらと考えています。

 

2023.06.03

景観を室内に引き寄せる

雄大な自然に囲まれた温泉街のある山岳観光地において、3月から調査・改修計画をスタートした4棟のプロジェクトの設計が大詰めを迎えています。

調査を進めると各施設は山肌に寄り添いながらその場にふさわしい方角を向いて建っていて、敷地条件や高低差を有効に生かしてその場所ならではの豊かな景観を享受していることが改めてわかりました。

そこで、日常となっているこの素晴らしい景観を再認識しながら今回の宿泊滞在空間に引き寄せることを一つのテーマに掲げ、各施設のリデザイン・リブランディングにもつながる計画を進めてきました。

四季を通して多くの観光客が訪れるこの地において、豊かな自然環境を最大限に取り込みながら、次の世代に向けた魅力ある改修提案ができればと考えています。

2023.03.16

庭を取り込んだ軒下空間

木架構による軒下空間のお茶処・休み処の事例の視察として、一条通りにある「虎屋菓寮京都一条店」を訪れました。
木の架構が美しい空間をなすお店として有名であるとともに、設計が内藤廣さんということで雑誌でも何度か拝見していて、以前から非常に興味のある建物でした。

室内の中心となる喫茶・休憩スペースは、奥にある既存の中庭と一条通りに面した前庭を結ぶ南北方向に向けての抜けを強く意識した透明かつ軽快な造りとなっていて、瓦屋根による重厚な外観との色濃いコントラストがとても印象的でした。

勾配屋根を架けることで生まれた室内の小屋裏には鉄骨造が隠れていて、天井の木ルーバーが意匠だけにとどまらず、この構造を補完する形で接合されていました。鉄骨と木が絶妙なバランスで補い合いながら、庭に向けての抜けや室内空間の柔らかさをつくり出している繊細でキレイなディテールに感動を覚えました。

外のテラス席となる軒下空間は庇を大きく張り出して軒先をできるだけ低く抑えることで、人を包み込むような空間となっていて、軒下に庭の空気感を目いっぱい引き込んだとても気持ちの良い場所となっていました。

この建物の配置計画・空間構成・ディテールを通して、昔から受け継がれてきた大切な庭に対する設計の強い意識・敬意がひしひしと感じられ、想像以上の貴重な体験をすることができました。