布施剛臣建築設計事務所布施剛臣建築設計事務所

2025.10.03

絵画「静唱」を迎える

長野県立美術館・東山魁夷館を2年ぶりに訪れました。

駅から続く坂道の先に堂々と佇む善光寺の存在感、城山公園と一体となったランドスケープミュージアムを楽しむ人々の姿、そして屋上テラスから望む信州の山並み。これらが重なり合うこのエリアは、好きな街であり、好きな場所です。この周辺を歩いていると、考えていることや感性が穏やかに澄まされていくように感じます。

また、谷口さんが設計した「東山魁夷館」は、光と影、水と石、そして館内の凛とした空気感までが調和した穏やかな美術館です。無駄のない構成の中で、建築と絵画が呼応し合い、心を静かに整えてくれます。

そんな中、かつてから心惹かれている東山魁夷の「静唱」を再び鑑賞することができました。晩秋の霧深い朝、ポプラ並木が水面に映る静寂の風景。作者が「ヨーロッパの異国の地で故国を恋う感情が静かに響いてきた」と語るように、淡い青に包まれた光景は、心の奥に穏やかな余韻を残します。

そして今回は、2年越しの想いを込めて「静唱」の絵画を購入し、ついに事務所に迎え入れることができました。日々の仕事の中で少しずつ波立っていく思考や感情が、この絵を前にすると静かに整い、凪のような状態になります。その静けさの中に、ものをつくる原点のような感覚がそっと戻ってくるような、そんな時間をもたらしてくれる一枚です。