布施剛臣建築設計事務所布施剛臣建築設計事務所

2026.04.09

街にひっそりと佇む場所

昨年から計画・打合せを重ねてきた「六日町のオフィス」の改装工事がまもなくスタートします。

文翔館の裏手にひっそりと佇むこの場所は、以前の「紙月書房」

ここは、2023年までの12年間、古本・カフェ・音楽に包まれながら誰もが自由に過ごせ、おおらかで独特の時間が流れる、街の中の特別な場所でした。

用途は変わっても、存在感のある丸太柱やカウンター上部の浮遊感のある付け鴨居など、想いの詰まった象徴的ディテールは残してあります。

少し手を加えながら「オフィス・ギャラリー」として再スタートするこの建物が、街にゆったりとした時間をまた刻んでいくことが今からとても楽しみです。

2026.03.29

風景と建築が重なる合う

関東の桜の開花に合わせ、以前から訪れたかった 「道の駅ましこ」を視察しました。

設計はマウントフジアーキテクツスタジオによるもので、「風景の建築」という考えのもと、周囲に広がる田園や山並みのかたちや質感を手がかりに、建築の形式や構成が丁寧に組み立てられていました。

内部は、木架構と土壁が空間を緩やかに分節し、屋根の位相差によって生まれるハイサイドライトからの自然光が差し込み、山並みと呼応するように連続的な空間体験を生み出していました。

風景を一つの媒介として建築が地域と深く結び直されていることがよくわかり、地域の公共建築のあり方の一つを体感できた貴重な視察となりました。

2026.02.03

省エネ住宅でのびやかに暮らす

「谷地の住宅」は、建主さんが住み始めてから2シーズン目の冬を迎えています。

久しぶりにお宅を訪ね、薪ストーブの火にあたりながら、雪化粧した田園風景を眺めつつ、この住まいでの冬の暮らしについてゆっくりとお話を伺うことができました。

この住宅は、山形県が推進する「やまがた省エネ健康住宅(等級:Y-G3)」の断熱性能を備えています。
実際に暮らしてみて感じる快適性についてお聞きすると、薪ストーブがもたらす輻射による身体で感じるやわらかな暖かさと、壁面などに蓄えられた熱が逃げにくい高い断熱性能によって、一日を通してとても快適に過ごされているとのことでした。
空気を強く暖めるというより、空間全体が穏やかに温まっている感覚だといいます。

今回の訪問では、体感だけでなく数値的な検証も行いました。
温湿度計による温度分布データの確認と、表面放射温度計を用いてリビング空間の床・壁・天井の温度測定です。
温度分布のデータは、朝の冷え込みが厳しかった1月24日をピックアップしました。(下図参照)

薪ストーブのあるリビングでは、就寝前に暖房を止めたあとも朝まで暖かい室温を保ち、午前10時頃から薪を少しずつ足しながら夜まで快適に過ごされていました。
また、暖房のない玄関前の廊下でも、夜間の外気温が−7.1℃まで下がったときでも室温は14℃を下回ることがなく、一日を通して寒さをほとんど感じないとのことでした。
断熱性能の高さによって、家全体の温度差が小さく抑えられていることがうかがえます。

訪問当日のリビングの床壁天井の温度は、以下の結果でした。
・リビングの室温(一般部)           21.8℃
・リビング床の表面温度(一般部)      21.1℃
・リビング壁の表面温度(薪ストーブ正面)  23.6℃
・リビング壁の表面温度(一般部)      22.1℃
・リビング天井の表面温度(一般部)     22.7℃

室温と床・壁・天井の表面温度の差が小さいことが分かります。
人が感じる暖かさは空気温度だけではなく、周囲の表面温度の影響も大きく受けます。
この住まいでは、空間全体が穏やかに温められることで、身体にやさしい快適な暖かさが生まれていることが確認できました。

この住宅で目指したのは、断熱性能を高めることとオープンな空間構成を組み合わせながら、「風景と適度な距離感を保ちつつ、雪国の寒い冬でものびやかに暮らせる山形らしい住まい」をかたちにすることでした。

訪問の一週間ほど前、早朝のリビングから南に広がる雪景色の田んぼに、キジが姿を現したそうです。静かな朝の光のなかで、その姿をご夫婦で眺めていたというお話を聞かせていただきました。

雪に包まれた風景と、暖かな室内の時間。
その両方を穏やかにつなぐ場所として、この住まいが日々の暮らしに根づいていることを感じた冬の訪問となりました。

2026.01.01

謹賀新年

謹んで新年のお慶びを申し上げます。
昨年は「谷地」「奈良沢」と、設計を通して各地の集落と向き合い、山形という土地に根差した風景と暮らしの息づかいに改めて触れる一年となりました。

「建築をつくることは、山形の新たな輝く風景をつくること」

この想いを胸に刻んで、土地に織りなす記憶を紡ぎ、各々の地域の素晴らしい風景と暮らしを見つめその土地の風土を大切にしながら、次世代へ続いていく建築と住まいのあり方を形にしてまいります。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2025.11.30

インクルーシブコンサート

山形市あこや町にある障がい児通所支援施設「アジェンダやまがた」は、旧大風印刷事務所を改修し、音楽の楽しさを通した療育活動の場として、木の実町から移転し再スタートを切った建物です。
地域に息づく建築ストックを活かし、人の営みと音が重なり合う風景を紡いできました。オープンから4年、いまでは子どもたちの声と音楽が、この地域の日常の風景として根づいています。

現在は利用者の増加を受け、隣接する旧ガッタハウスを活用した第二期の改修計画がいよいよ始動しています。

設計者としてこの活動への理解をより深めたいと思い、今日は法人主催の「インクルーシブコンサート」を鑑賞してきました。子どもたちの演奏とピアニスト三輪郁さんの音色が響き合う会場には、アジェンダやまがたが大切にしてきた“音楽が人と人、場所と地域をつなぐ力”が確かに感じられました。

今回の計画で目指すのは、音楽を通したインクルーシブな活動をやさしく包み込み、地域と共に歩む“もうひとつの家”のような場所です。
11年前に訪れたイギリスの「マギーズハウス(Maggie’s Centre)」の理念である「施設でも家庭でもない、心が解きほぐれる“家のような建物”」に通じるものもあります。
「音楽」「インクルーシブ」「地域」「既存建物の再生」という4つのテーマに沿い、地域と音楽支援活動が響き合う姿を丁寧に形にしていきたいと思います。

 

2025.11.06

奈良沢を肌で感じる

天童市にある「奈良沢の住宅」のプロジェクトがまもなく始動を迎えるにあたり、紅葉が深まる秋晴れの日に現地で街歩きとフィールドワークを行いました。
敷地は天童市南東部、貫津沼のほど近くに位置し、背後には「出羽の三森(みつもり)」と呼ばれる舞鶴山・八幡山・越王山が連なります。古くからこの山々は田を潤す水源として地域の生活を支え、この地域の風景の一部となってきました。

まず今回計画する敷地周辺を歩いて印象的だったのは、背後に迫る越王山の存在感です。敷地の奥では紅葉した里山と庭のハナミズキやモクレンなどが重なり合い、「山を背に庭を前に抱く」構図に、この土地ならではの暮らしの原型を感じました。
街道沿いには昔からの名残のある建物も点在し、石垣や生け垣と一体となって穏やかな集落景観を形づくっています。少し離れた場所から集落全体を眺めると、田畑の向こうに「出羽の三森」の稜線が見え、「山並み・田畑・集落」が水平ラインに層をなして素晴らしい風景となっていました。

これから始まる計画では、こうした地形や風景を大切にし、南東に開く眺望軸を確保しながら、里山の稜線を生活の背景とした住まいの姿を思い描いています。
敷地内にある既存の庭木も生かし、内と外が緩やかにつながる空間をつくることで、奈良沢らしい四季の移ろいが住まいに滲み込むような住環境を目指したいと考えています。

2025.10.03

絵画「静唱」を迎える

長野県立美術館・東山魁夷館を2年ぶりに訪れました。

駅から続く坂道の先に堂々と佇む善光寺の存在感、城山公園と一体となったランドスケープミュージアムを楽しむ人々の姿、そして屋上テラスから望む信州の山並み。これらが重なり合うこのエリアは、好きな街であり、好きな場所です。この周辺を歩いていると、考えていることや感性が穏やかに澄まされていくように感じます。

また、谷口さんが設計した「東山魁夷館」は、光と影、水と石、そして館内の凛とした空気感までが調和した穏やかな美術館です。無駄のない構成の中で、建築と絵画が呼応し合い、心を静かに整えてくれます。

そんな中、かつてから心惹かれている東山魁夷の「静唱」を再び鑑賞することができました。晩秋の霧深い朝、ポプラ並木が水面に映る静寂の風景。作者が「ヨーロッパの異国の地で故国を恋う感情が静かに響いてきた」と語るように、淡い青に包まれた光景は、心の奥に穏やかな余韻を残します。

そして今回は、2年越しの想いを込めて「静唱」の絵画を購入し、ついに事務所に迎え入れることができました。日々の仕事の中で少しずつ波立っていく思考や感情が、この絵を前にすると静かに整い、凪のような状態になります。その静けさの中に、ものをつくる原点のような感覚がそっと戻ってくるような、そんな時間をもたらしてくれる一枚です。

2025.09.18

谷地の住宅・「Works」更新

今年の5月に竣工した「谷地の住宅」を「Works」に追加しました。

この敷地は、四季を映す水田と遠くに連なる山々が調和し、静かな時間の流れを感じられる場所です。その豊かな田園風景に向けて建物を開き、代々受け継がれてきた中庭の存在を大切にしながら計画を進めてきました。

計画の主題として掲げたのは二つです。

ひとつは、この土地が持つ潜在的な素晴らしさを引き出すこと。田園のひらけた眺望と、屋敷内へと導くように存在する中庭。その両方を日常の暮らしの中に取り込み、新しい住まいを風景と結びつけることを目指しました。

もうひとつは、地面とのつながりを保ちながら接地性・平屋性をもたせること。深い軒を介して人の営みと家庭菜園・田園風景が連続的かつ近距離的に関わり合うように計画しました。木々や農作物が傍にあり土に触れる暮らしが、この土地らしい新たな風土の基盤を築いていきます。

「谷地の住宅」は、風土に根ざした姿と地面とつながりをもったエコロジカルな暮らし方をひとつに結び、土地の記憶とこの地域ならではの暮らしを静かに織り合わせた住まいとして、また新たにここに佇み続けます。